わたしの、センセ
「何…それ」

「頭のいいさくらなら、わかるはずだよ? 建前は婚約破棄。だけど俺たちが愛し合って結ばれるなら……別に、小山内勇人との契約違反にはならないってこと」

階段を降りながら、道隆さんが不敵な笑みを浮かべる

わたしとの結婚を諦めていないっていう気持ちがひしひしと伝わってきて、寒気が走る

「愛し合えるばす…ないじゃない」

わたし…道隆さんが嫌いだもの

わたしが好きなのはセンセよ

こんなずる賢い男を好きになるはずないじゃない

やめてよ

絶対に愛し合ったりなんかしない

「まあ、気分よく朝帰りしたお行儀の悪いお嬢様に、今日はこれ以上の追い打ちはかけないけど…」

道隆さんがわたしの前で足を止めると、にやりと笑って、見下ろしてくる

威圧感のある視線に、わたしは目をそらした

道隆さんは腰を折ると、わたしの耳元に口を寄せる

「バイクの彼氏……破滅させたくなかったら、もう会わないほうがいいよ。俺、本気だから」

小さな声で、わたしを脅迫してくる

わたしはじろっと、道隆さんを睨むと、きゅっと唇を噛みしめた

せっかくセンセと、想いが通じ合えたと思ったのに…この人はなんてことを言うの?

わたしを脅してまで、一緒になりたい理由は何なのよ

「わたし、貴方が嫌いです」

「俺は好きだよ。ここで押し倒してもいいくらいね」

口を緩めて笑う道隆さんに、わたしは悔しくて苛々した

何か…ガツンと言い返したいのに、何も言えないわたしが情けなくなる

「ま、そのうち、さくらのほうから僕に足を開くだろうけどね。その日が楽しみだね」

道隆さんがわたしの肩をポンと叩くと、スーツのポケットに手を突っ込んで、わたしの家を出て行った
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