わたしの、センセ
僕はデパートの1階の化粧品売り場に立っている真央を遠くから確認してから、外に出た

職員用の入り口が見える位置にバイクを停めて、僕は仕事を終えた真央が出てくるのを待った

9時になり、デパートの明かりが落ちると辺りは真っ暗になった

それから10分も待たなかったと思う

私服に着替えた真央が鞄を肩にかけ、携帯を耳にあてて楽しそうに笑いながら出てきた

警備員にぺこっと頭をさげた真央が、歩道に出てくる

僕はこっちに向かってくるであろう真央にヘルメットを渡す準備をしていたら、真央が手をあげて振ってくる

僕に気づいてくれたのだろうか

いや…違う

真央は僕を見てない

一台の車が、真央の横に静かに停車する

見るからに高級そうな車から、一人の男が降りてきた

50代前半のいかにもセレブそうな男が、両手を広げると真央を抱きしめた

真央も男に抱きつくと、嬉しそうな顔をして男の頬にキスをする

地元を離れたくない理由はこれか……

親密そうな二人を眺めて、僕は薄笑いを浮かべた

悲しいとか悔しいとか…苛立つとか、そういう感情はなかった

驚くほど冷静に、抱き合う二人を見て、受け入れていた

真央と男が手を繋いで、車に近づいていく

男が助手席のドアを開けているとき、僕は真央を目が合った

真央がひどく驚いた顔をして、僕を見る

僕は、真央に微笑むと真央専用の赤いヘルメットを歩道に置いた

真央に男がいるなら……これは、もう必要ないよな?

僕は、ヘルメットをかぶると、暗闇に向かってバイクを走らせた

遠距離恋愛は5年目の春で終止符を打たれた

やっぱ、就職は地元の高校にすれば良かったかな? …なんて少し後悔する気持ちを、僕は涙と一緒に外に流した

< 49 / 176 >

この作品をシェア

pagetop