側にいる誰かへ
「わかったよ。今日は帰る。」

俺は寂しげに呟く。

「でも、必ず話をつけて、明日戻ってくるから。」

俺は彼女の目をしっかり見据える。

彼女はしばらく何かを考えていたが、やがて笑顔になる。

「うん。待ってる。」

その笑顔は、とても綺麗だった。

俺は彼女をそっと抱きしめた。


俺は両親と共に彼女の家を出た。

後ろには見送る彼女の姿がある。

俺は彼女に笑顔を向ける。

明日には帰るよ。

心でそう呟いた。



俺は家に帰り、両親と話をした。

彼女との事。

徹との事。

喧嘩の事。

今までの事。

両親とこんなに話をしたのは何年ぶりだろう。

何て事ない。

簡単な事だったんだ。

父さんには父さんの意見がある。

母さんには母さんの意見がある。

俺にも彼女にも。

その意見の違いに耐えられなくなる時はあるけど…。

その時は暴力でなく、意見を伝えれば良い。

それでも駄目なら、

…………………。

その時、考えるさ。

まずはやってみないと。

父と母は少なくても、話の通じない相手じゃなかった。

それもそうか。

俺はこの人達の背中を見て育ってきたんだから。

俺はもっと早くこの人達と向かいあったら良かったんだ。

今まで、誰よりも嫌いだった両親。

その理由は、一番大好きだったから。

好きだからこそ、常に自分の一番の理解者であってほしかった。

だから、反発する。

考えが合わない事が許せないから。

一番わかってほしいから。

反発は愛情の裏返し。

それが今わかった。

そして、それがわかった時、俺と両親は同じ土俵にいた。

親と子ではなく、

一人の人間どおしとして。

長い時間が流れた。

明け方、両親は俺と彼女の事を認めてくれた。

高校を必ず卒業するとの条件付きだが、一緒に暮らす事を許してくれた。

俺は彼女の家に走る。

報告したい事は山ほどある。

でも、まず彼女の顔が見たかった。

抱きしめてあげたかった。

彼女の笑顔が頭に浮かぶ。

俺は彼女の家に急いだ。
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