それでも君と、はじめての恋を
「最近、ドタ多いんだって」
ポツリと通りすがりに耳元で呟いた純に目を見張って、振り向くといつも通りの純に戻っていた。
自分の席に戻るだけなのに、主に女子と一言二言話しては無駄に可愛い笑顔を撒き散らしている。もうあれは病気だ。
カタンと音を立てて椅子に腰掛け、背もたれではなく窓に背を預ける。
目の前にはモモ、右隣には葵。そして右斜め前には七尋くんの弟、森くん。
き、聞きづらい。
森くんさえいなきゃって、森くんは何も悪くないんだけど。さすがに弟の前では葵も話したくないだろうしなあ……。
「……」
「……」
モモに見られた。
だけど何も言ってこないモモに首を傾げると、真似される。
いやいや……何か用があるのかってことなんだけど。ちょっとニヤけちゃったじゃん。
「渉」
「はい!?」
過剰反応したあたしに葵は一瞬目を見張ってから、呆れたように眉を下げて笑う。
すいません葵のことを忘れて脳内ピンク色にしようとしてたわけじゃないんです。
「気にしないで。大したことじゃないから」
そう言われたところで先生が来てしまい、話は終わってしまった。
気にしないでと言われても……。それに純の最近多いって言葉も気になる。
聞いちゃダメってことはないだろうし、きっとすぐ機嫌も直ると思うけど、今は近くに森くんがいるから口は閉じてた方がいいかもしれない。
……葵と七尋くん、うまくいってないのかな。