それでも君と、はじめての恋を


「……なんの話してんの」

「アンタのダメ男っぷりについて」

「ちがっ! 違う! 昔話! モモ小3からキッチン立ってたとか凄いね!」

「渉ちゃん甘いわー。いいのよ、このダメ男!ってハッキリ言っても」

「今そんな話してなかったじゃないですか!」

「そうだっけ?」

こ、この人は……!


言い返せずにいると、隣で溜め息を吐いたモモが「もう終わった?」とお母さんに尋ねる。


「見て分かるでしょ。部屋連れてっていいわよ。でも渉ちゃんが嫌がることしちゃダメよー」


――ヒッ!


ズオッ!と何か黒いものがモモの背後から溢れた気がして、ああきっといつもこんな親子なんだろうな、と思った。


「行こ」

「あ、うん」


あたしの鞄を持って歩き出したモモを追いかける前に、もう一度お母さんと顔を合わせる。


「今日はほんとにありがとう御座いました! えと、お邪魔しますっ!」

「フフッ。私仕事だから何のお構いも出来ませんけど、ゆっくりしてってね」


ヒラヒラと手を振るお母さんに笑い返して、待っていてくれたモモに駆け寄った。


「……大丈夫だった?」

「何が? ……わ! こうなってたんだ! 凄いね」


赤いドアを開けると目の前にはどうやら外に繋がるドアがあって、すぐ左手に階段、右手には6畳ほどの部屋がある。


部屋の中は閉まりきっていないカーテンの隙間からしか見えなかったけど、壁に沿って色んなものが置かれていた。


「こっち」

「やっぱり2階がモモの家なんだ」


階段を上るように促されて、カツンカツンとヒールの音を出しながら上りきった先に玄関があった。


鍵を差し込むこともなくドアを開けたモモは一言。


「どうぞ」

「お、お邪魔します……!」



7月14日、土曜日。天気は多分まだ曇り。


モモと付き合って5ヵ月記念日の今日、ついにあたしはモモ宅に足を踏み入れる。
< 351 / 490 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop