それでも君と、はじめての恋を
「……なんの話してんの」
「アンタのダメ男っぷりについて」
「ちがっ! 違う! 昔話! モモ小3からキッチン立ってたとか凄いね!」
「渉ちゃん甘いわー。いいのよ、このダメ男!ってハッキリ言っても」
「今そんな話してなかったじゃないですか!」
「そうだっけ?」
こ、この人は……!
言い返せずにいると、隣で溜め息を吐いたモモが「もう終わった?」とお母さんに尋ねる。
「見て分かるでしょ。部屋連れてっていいわよ。でも渉ちゃんが嫌がることしちゃダメよー」
――ヒッ!
ズオッ!と何か黒いものがモモの背後から溢れた気がして、ああきっといつもこんな親子なんだろうな、と思った。
「行こ」
「あ、うん」
あたしの鞄を持って歩き出したモモを追いかける前に、もう一度お母さんと顔を合わせる。
「今日はほんとにありがとう御座いました! えと、お邪魔しますっ!」
「フフッ。私仕事だから何のお構いも出来ませんけど、ゆっくりしてってね」
ヒラヒラと手を振るお母さんに笑い返して、待っていてくれたモモに駆け寄った。
「……大丈夫だった?」
「何が? ……わ! こうなってたんだ! 凄いね」
赤いドアを開けると目の前にはどうやら外に繋がるドアがあって、すぐ左手に階段、右手には6畳ほどの部屋がある。
部屋の中は閉まりきっていないカーテンの隙間からしか見えなかったけど、壁に沿って色んなものが置かれていた。
「こっち」
「やっぱり2階がモモの家なんだ」
階段を上るように促されて、カツンカツンとヒールの音を出しながら上りきった先に玄関があった。
鍵を差し込むこともなくドアを開けたモモは一言。
「どうぞ」
「お、お邪魔します……!」
7月14日、土曜日。天気は多分まだ曇り。
モモと付き合って5ヵ月記念日の今日、ついにあたしはモモ宅に足を踏み入れる。