それでも君と、はじめての恋を




「ただいまー」


早めにバイトを上がらせてもらい帰宅した夜10時過ぎの我が家には、いい匂いが立ちこめている。リビングに入れば、お母さんがキッチンにいた。


「おかえり。どうだったー? バイト先は」

「いい感じ。それよりお腹空いたっ!」

「はいはい、今準備してるから着替えてきなさい」


電車に乗ってる間にメールしといて良かった。

そう思いながら、お母さんの言うことも聞かず疲れた体をソファーに沈ませる。


同時に放り投げたカバンの中から紅茶の入ったペットボトルを取り出して、渇いた喉も潤わせた。


「っあー! 疲れたぁ」

「渉! スカート皺になるでしょ!」

「おお、任せて」

「何が任せてよ」


ゴロンとソファーに寝そべったあたしにお母さんは呆れたように「誰がアイロンかけると思ってるの」と言うだけ。


そんな言葉も聞き流しながら携帯を取り出して、受信したメールを開く。帰り道に送ったメールに返信してきたのは、もちろんモモ。


――お疲れ。いい感じのバイト先で良かったね……だけ!?

制服の写メ送ったのにスルーって! 似合うねくらい言えないのか!


「……ほんと、淡泊」


返信ボタンを押してから、引用されたモモの文章を眺める。


きっと、あの鉄仮面でメール打ってるんだろうなぁ……。


あたしなんてモモと初めてまともなメールした時、泣いたからね? 知らないでしょうけど、渉って呼ばれて嬉しさのあまり泣きましたからね?

なんて乙女なあたし。


「……」

会いたいなー、とかハートの絵文字付けて送ってみようか。そしたらどう返ってくるんだろう、なんて。


考える前に溢れだした好奇心があたしの指を動かしたから、送ってしまった。


……俺も、とか返ってきたら……あ、それはない。100%ない。言い切れちゃうこの悲しさ凄い。


「う~ん……」


『何で?』が、1番有り得そう。次が、『今から?』かな。どっちも疑問系なのがね……モモっぽいよね。


それであたしがどう返しても、多分『危ないからダメ』だと、思う……。


いや、逆に『俺から行く』みたいな? 『渉は家で待ってて』的な? ヤバイ興奮してきた。
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