それでも君と、はじめての恋を
「まだ時間かかりそう?」
「……多分」
なぜか申し訳なさそうに眉を下げる葵に微笑んで、「そっか」と返した。
「はーっ! もう、考えるのも嫌になってきたわー……」
両腕を高く上げ、ロッカーに預けていた体を起こした葵は教室へ入ろうとして、あたしはその背中に抱き付く。
「じゃあ甘いものでも食べに行こうっ」
「――いいね。アイス? ケーキ?」
「んーっ。クレープでもいいよね!」
振り返って笑顔を見せてくれた葵の前へ回り込み、放課後デートの計画を立てようとすると安部ちゃんが教室に入ってきた。
「座れー」
そう言って教壇に立った安部ちゃんに、各々好きな場所に散っていたクラスメイトは自分の席へと戻る。
相変わらず後ろの席は葵、その隣には森くん。そしてあたしの隣の席はモモだったけれど、すぐに視界から追い出した。
「あー、夏休みが終わったわけだがー」
……ケーキかぁ。
安部ちゃんの話を意識半分で聞きながら、机の下で携帯をいじる。飲食店を評価する検索サイトを見ていると、洋菓子店の名前がずらり。
どうせなら行ったことのない店で、可愛くて美味しい甘い物が――……あ。
回ってきたプリントを受け取り、後ろの葵に渡しながら口を開いた。
「この前久坂さんが教えてくれた店があるんだけどさ」
「うん? ケーキ屋さん?」
「ううん。普通のカフェでコーヒー専門らしいんだけど、そこのスイーツが異様に美味しいんだって。隠れ名店って言ってた」
「マジで? じゃあそこ行こうよ」
コーヒー好きの葵は顔を明るくさせて、あたしも楽しみという気持ちを乗せて笑い返した。
「てか久坂さん何者? 甘党?」
「よくひとりでカフェ廻りするんだって」
「やばい、想像つく」
フッと軽く吹き出した葵に同意してると、「矢吹前向けっ」と安部ちゃんに注意される。素直に体を正面に向けるあたしは目を伏せて、極力視界に何も入らないようにしていた。
……隣の席って、同じクラスって、こういう時は面倒。気まずいっていうか、居心地悪い。
そんなあたしの思いが届いたのか、なんて思ったけれど。
「ほんじゃ、席替えすんぞー」
安部ちゃんは1年生の時も夏休み明けに席替えを実行したな、と思い出した。