それでも君と、はじめての恋を


「葵と一緒に行こうと思って。邪魔なら、近くで待ってればいいかなって」

「……」

ダメだ、暑い。


再びお茶を喉に流し込んで、手で顔を仰ぎながらふと葵に視線を移すと、かちあった瞳は驚きを滲ませていた。


「あ、ほんと邪魔はしないから。なんなら最寄り駅で待ってるし。ていうかゴメン、ほんと勢いで追い掛けてきちゃった……」

「違う」

「ち、何が?」

「渉、バイトは?」

「え? ……ああ、変わってもらった。急だったけど、ほら、あたし夏休み3回くらい代わりに出てくれって頼まれてたじゃん。だからっていうか、まあ大丈夫だったよ」

「何で?」

「何で!? 何が、え? だから、ほんと邪魔はしないつもりで……」

「言ってない」


スピーカーから電車の到着がアナウンスされる中で、葵はジッとあたしの目を真っ直ぐ見ていた。


「今から七尋と逢うって、言ってないよ」


言われなくても分かるよ……なんて、本当は教室で言ってほしかったよ。だけど言わないのは、気丈に振る舞っているんだとか、気遣ってくれているんだと思ったから。


葵が考えて考えて出した答えなら、黙って見送って、バイトへ行って、家で待ってようって思った。


本当にこれでいいのかなって思いながら、あたしは、どうしたいんだろうって思いながら。後悔とも言えない自分のふがいなさに、激しく嫌気が差した。


何もできないあたしでいい。葵の為に何かしてあげられるなんて思ってない。


葵が傷付くかもしれないような言葉さえ、投げ掛けるかもしれないけど。そんなことになったって、葵は黙っていない子だって知ってる。


ちゃんと自分の気持ちをハッキリ言ってくる子だって、あたし、知ってたのに。


葵の為に、葵の為にって思いながら気遣って、見守って、隣にいるつもりが実はとても離れた場所にいた。


葵の口を閉ざしてしまったのは、気丈に振る舞わせてしまったのは、きっとあたしにも原因があるって思ったから。


走って、追いかけてきたんだよ。
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