あたらしい世界
「もえぎちゃんと、優人か。うふふ〜」


音々先輩が、含み笑いをする。優人とは、部長の名前だ。


「違いますって」 


確かに、ここ3日間一緒にいたけれど。


膝まくらも、したけれど。

私たち、全然そんな関係じゃないもん。
 

何だか妙な視線を感じながら、個人練習の時間を終えた。


続いて、合奏の時間になり、他のパートもこの第一音楽室へ流れ込んできた。


部長も、オーボエとパイプ椅子を抱え、中へ入ってきた。


コントラバスの4年生の優男、月見坂先輩と何やら談笑している――よかった。

いつもの部長だ。


合奏で指揮をとる時もいたって普通。


たまに演奏の指摘をする時に、あたまをフラフラ左右に揺れる癖も健在。


ミッキーマウスマーチをやる時は、アップテンポで指揮を振ってしまい、たった3小節で合奏がバラバラになり、


「ぶちょー、早ぇよ」


と、総ツッコミされていたけれど。


昨日、号泣していた。


部屋がボロボロになるまで暴れているような、そんなひとには見えなかった。


編成ごとに別れての練習の時間も、私たち6人のメンバーにジュースを奢ってくれて。


楽器は使用せずに、楽譜を持ち寄って自分の担当のパートを歌で唄う練習をした。


これが部長流の練習方法なのか、と思っていたら。


「楽器吹きすぎると、疲れるでしょ」


そう言って、カカカと笑った。


私たちの編成はそれで、『レンシュウギライ』という名前になった――やる気なし……。


でも、こういうユルイところがいいよね。


その後は雑談で終わった。
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