渇望

血の繋がり

真綾はあれからも、普通に笑いながら仕事をしているし、香織も相変わらず、オーシャンで飲んだくれている。


詩音さんの冷笑も、ジローの無表情も、まりんちゃんの涙も、全ては日常のことだった。


瑠衣とも、アキトとも、ジュンとも、何があったわけでもない。


2月を過ぎれば寒さも落ち着き、春を待つ頃となった。


一本の電話が入ったのは、そんな時。







「すっかり居場所もバレちゃったわね。」


鼻で笑ってあたしは言った。


さびれた喫茶店で向かい合うのは、血の繋がったお兄ちゃん。


どうやって調べたのか、あたしの携帯に電話してきて、そして会いたいと言われてしまった。


地元に戻った日から、気付けば2ヶ月以上が過ぎていた。



「今更改まって、こんな場所まで押し掛けてきて、何なわけ?」


苦いコーヒーをすすり、煙草を咥えるあたしを見て、お兄ちゃんは怪訝な顔をする。


まぁ、この街まで足を運ばれたって、笑顔で迎えることなんて出来ないから、当然と言えば当然だけど。



「煙草は体に悪い。」


「医者が言うと説得力あんね。
それにまるで“本当のお兄ちゃん”みたい。」


小馬鹿にして言うと、彼は長くため息を吐き出した。



「ちゃんと百合に謝りたかった。」

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