渇望
第四章-錯綜-

桜の木の下

4月を迎えれば、もう肌寒さも緩和され、身を寄せ合う必要はないのかもしれない。


けれどもあたしは今日も彼の部屋で一緒に過ごし、抱き合って眠っていた。


孤独に負けた、と言えばそれまでなのかもしれないけれど。


中途半端に一緒にいるべきではないとは、頭ではわかっているのに。


救う気もないくせに、知れば知るほどどうすることも出来ないと思ってしまう。


暖かくなるにつれ、瑠衣は疲弊した顔をすることが多くなっていった。


例えばそれは、母親のぬくもりを求めて震える子供のように、縋るような目をすることが増えた気がする。


その理由なんて知らないけれど。


互いに何を捨てたわけでもなければ、反面でその存在に依存し、指輪を外そうとはしない。


あの頃、緑のひとつもない場所で迎えた春にあたしが寄り添っていたかったのは、誰だったろうか。


瑠衣が探しているのは、たったひとり。


だからその瞳にあたしが映っていないのは、きっと当然なのだろうけど。







『――…今年の桜は例年よりも少し遅い開花となりそうで、見頃は少なくとも…』


ニュースはこの時期恒例の話題で、それに耳を傾けていると、瑠衣は突然テレビを消した。


そしてビールを流しながら彼は、リモコンを放り投げる。


さすがのあたしも何すんだよ、と思ったものの、瑠衣は苦々しそうな顔で出窓に腰を降ろした。



「ちょっと、何も消すことないじゃん。」


「うるせぇんだよ。」


吐き捨てられたのは、舌打ち。


機嫌が悪いのかは知らないが、少なくとも今まで、こんな態度をされたことはなかった。


その瞳は、まるで誰も寄せ付けない獣のようだ。

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