渇望
ごめんなさい、と彼女は言う。


何に対してなのかもわからないのに、謝られた分だけ何故だか惨めな気分にさせられた。


あの後どうなったのかなんて、聞きたくもない話だけれど。



「でも、百合ちゃんは瑠衣が好きなんでしょ?」


もう何度、そんなことを聞かれたのかもわからない。


詩音さんは、あたしにどういうことを言ってほしいのだろう。


何を言えば、こんなにもやりきれない気持ちを払拭出来るのだろう。



「詩音さんこそどうなんですか?」


問うと、彼女はまた顔を俯かせた。


嫌に長い沈黙の中で、視界の隅には小指の指輪が虚しく映る。



「あたし達の過去のこと、知ってる?」


「…はい。」


少し言いにくそうにした後で、詩音さんはあたしを見た。



「瑠衣にだけは、会いたくなかったのにね。」


自嘲気味に漏らされたのは、そんな台詞だった。


心底辛そうな顔で言った彼女は、そして唇を噛み締める。


立ち昇るだけのコーヒーの湯気と、ちっとも朝が来る気配のない空の色。


泣きそうだったのは、あたしなのか、詩音さんなのか。



「今でもね、あの凄惨な光景がまぶたの裏に焼き付いて、離れてくれないの。」

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