渇望
ここは瑠衣の部屋であって、あの真っ暗な物置きではない。


後藤にされたように無理やりじゃないし、あたしは瑠衣に抱かれることを望んでいる。


必要とされているから、これは喜ぶべきことなのに。


なのに一方で、時々怖くなるのだ。


彼が異常な目をしたり、あたしを抱き締めて死んだように眠っている姿を見ると、体が震えてる自分がいる。


そんなあたし達に、未来なんてものは、最初からないのかもしれないけれど。



「百合、どした?」


弾かれたように顔を向けてみると、戻ってきた瑠衣の姿。


時々過去と現実がごちゃ混ぜになって、パニックに陥ることが増えた。


ボロボロと涙を零すあたしを見て、彼はいつもひどく悲しそうな顔になる。



「何かあった?」


その問いに、あたしは首を左右に振ることでしか意志を示せない。


瑠衣は今までどこで何をしてたんだろう、詩音さんと会っていたんじゃないか、と、拭えない疑念まで湧いてくる始末だ。


誰の目から見ても、あたしの状態はおかしいのかもしれない。


自覚だってしていないわけではないけど、それでも、自ら望んでここにいるのだと思っていたかった。


瑠衣を傷つけるようなことは出来ない。


けれどいつだって、彼は悲しそうな目であたしを見ていた。


瑠衣の状態だって傍目から見ればおかしいのかもしれないけれど、でも、これがあたし達なりの精一杯だったろう。


彼は包丁を、あたしは暗闇を、未だに恐れたままなのだから。


過去からは、いつまで経っても逃げられないね。

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