渇望

絶望のタガ

夏の夜は嫌いじゃない。


ジュンの言葉は未だ、頭の中を廻り続けていた。


けれど一方で、あたしと瑠衣は出窓に座り込み、そこでいつものようにビールを飲んで、他愛もない話をする。


これで良いのかなんてことは、わからないけれど。


もちろん、詩音さんの話題になんて、怖くて触れることも出来ないままだ。


ただ、いつもそこには月があった。



「俺さ、夏休みとか冬休みとか、すげぇ嫌いだったんだ。」


ふと、思い出したように彼は言う。



「ずっと片親だったし、絵日記だってろくな思い出なくてさ。」


そこまで言った瑠衣は、手に持ったビールの缶へと視線を落とした。


本当に寂しそうな顔をして。



「なのにさ、アキトのアルバム見て、悔しくなったよ。」


「…うん。」


「アイツはさ、キャンプ行ったり、海行ったりさ、親父の横で笑って映ってんの。
ただ嫉妬してるだけなのかもしれないけど、俺ら捨てていい気なもんだよな、って。」


それは、劣等感にも似たものなのかもしれない。


蓄積された拭えない感情ゆえに、彼はアキトの家族を陥れようとしたのだろう。



「ねぇ、今もアキトのこと、恨んでる?」


わかんない、と瑠衣は言う。



「あれからもうずっと会ってねぇしさ、一応は弟だし。」

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