渇望

蜃気楼の城

開け放たれたままだったカーテンの隙間から、強い陽射しに染められた。


だから否応なしに意識を引き寄せられ、薄目を開けると誰かに抱き締められて眠っていたことに気付いたのだけれど。


たゆたう曖昧なままの記憶の糸を辿り、そこでやっとあたしは昨日のことを思い出した。


でも、とりあえずカーテンを閉めたくて、なのに手を伸ばそうとすれば、んんっ、とくぐもった声を上げた彼に捕えられ、動くことさえままならない。



「瑠衣、起きてよ。」


「んだよ、うるせぇ。」


と、もぞもぞと動いた彼は、そこで初めてあたしと目が合い、あぁ、と言った。



「つーか、今何時?
俺、マジ頭痛くて死にそう。」


欠伸を混じらせながら、瑠衣は体を起こしてこめかみを押さえる。


そりゃあ居酒屋であれだけ飲んだ上に、あの後も懲りずに酒を煽っていたヤツは、自業自得以外の何者でもないだろうけど。


なのであたしは、「大丈夫?」なんて言いながらも、そこに気持ちはこもらない。


瑠衣は聞いてもいないような顔で、壁掛け時計を一瞥し、煙草を咥えた。



「ねぇ、この家って何か食べ物とかないわけ?」


「んなもんねぇよ。」


あっそう、とあたしは、半ば予想していた答えを聞き、呆れた。


刹那、鳴り響いた電子音は、瑠衣の携帯のもの。


咥え煙草の彼はディスプレイを確認し、心底面倒くさそうな顔で、通話ボタンを押した。



「あっきー、何?
うっせぇなぁ、今起きたんだっつの。」


はいはい、なんて言いながら、瑠衣はすぐに電話を切った。


あたしも体を起こし、その辺に散らばっていた衣服をかき集め、それを着る。

< 31 / 394 >

この作品をシェア

pagetop