私の風
もう一つのサーフィン

「あれ?兄貴。今日いつもより早くねぇ?」


玄関で
後ろから声を
かけられた。


「辰巳(たつみ)。お前こそこんな時間にどうした?!」


弟だった。

素直に驚く。

毎日遅刻ぎりぎりに
起きている弟が、

朝日が昇る時間に
起きていたのだ。


「俺は今日の小テストの勉強してたんだよ。もう寝る。」

「寝るってお前…おかしいだろ。まぁいいや。寝坊すんなよ。」

「分かってるよ。で?何で今日は早いの?」


しつこいなぁ。


「友達が来てるかもしれないから、早めに行こうかと思って。」

「珍しい!兄貴が人に時間合わせるなんて!何?彼女?」


…何だか
昨日似たような台詞を
聞いたような…。


「違うよ。もう、いいから寝ろ。」

「ふーん…じゃあそーするわ。行ってらっしゃい。」

「ああ。」


玄関のドアを開けて
冷たい空気に
飛び込む。

深く深呼吸すると、
いつもより少し
冷たい空気が
喉を通った。


「あ!兄貴!」


ゆっくり
振り返る。


「何だよ。寝ろよ。」

「明日は俺も一緒に行くわ。
あんまり朝のサーフィンは好きじゃないけど、最近小テストばっかりで体が鈍ってて。」

「ふーん…。」

「じゃ、そゆことで。おやすみー…」


ガチャ…


あくびをしながら
玄関の奥に
消えていった。


あいつは炎天下で
やるサーフィンが
一番好きらしい。


だからあまり、
朝や夜には
サーフィンをしない。


実力は
あると思う。


テクニックもあるし、
力強さもある。

試合に出たら
そこそこの
結果が
でるんじゃないか。







それより…



明日来るのか…。




あんまり沙鵺に
会わせたくないなぁ。



なんでって…



めんどうだから。






大きくため息をつく。





その思いを
振り切るように


海に向かって
走り出し、


体が望むままに
目の前の海に
思い切り、
飛び込んだ。
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