まほろば【古代編】
私は、すぐにまたその国を後にした。

何かにせかされるように、ただただ足を前に進める。

国の境界を抜けあと少しで集落に辿り着ける、そう思った瞬間だった。

一瞬気を緩めたのがいけなかったのだろう。

私の体の中を何かしびれるような感覚が流れた。

目の前には懐かしの故郷。

意味もなく手を伸ばす。

まるでそれで何かを掴めると思ってるかのように。

薄れゆく意識の中で、何かが近づいてくるのを感じた。

あぁ、私はこんなところで斃れてしまうのか?

早く、早く、アキ様に知らせなくては……。

霞む瞳が最後に捉えたのは、大小一つずつの影だった。


【ツクヨミの章・完】
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