先生と王子様と演劇部な私。
「退部したこと、後悔してますか?」

 つい、そう聞いていた。


「……いや。当時の俺は逃げ出してなければ、耐えれなかったと思う。演劇部のすべてが苦痛だった。平といるのも……」


 朗先生は目を瞑って、ゆっくりとそう答えた。何かを思い出しているように。



「なら……いいんじゃないですか?」



「え?」

 私の言葉を聞いた朗先生が、少し怪訝そうにこちらを向く。


「だって、耐えれないなら逃げてもいいと思います」


 私はそう思う。褒められた行為ではないけど、堀木戸さんも辛そうだった。きっと朗先生も相当辛かったんだと思う。大人になった朗先生が、今でも耐えれなかったという思うくらいに。


「朗先生が、案外普通の人で安心しました」


 私がちょっと意地悪っぽく言うと朗先生は、案外って何だよ、と軽口を叩いた。しかし、すぐに暗い顔に戻ってしまう。


「……ただ、平には酷いことをしてしまった」


 朗先生が苦しそうに呟く。酷いことって? なんて、聞けなかった。今は聞いちゃいけない気がした。
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