新月の夜
。誰か後ろにいるの?一人じゃないみたい。」
「?」

麻友美は気付いていないみたいだ。悠太の母は降りて麻友美の母に頭を深く下げて、

「うちの次男坊が娘さんを妊娠させてすいませんでした。先日、長男と義兄が伺いました。主人と一緒に伺わないといけなかったのですが主人は仕事の為、後日、本人も同伴させ、お伺い致します。この度は結婚前にこういった事になり、すみませんでした。息子は心優しい人です。どうか許して下さい!」

車の中で奈央の泣き声。母は奈央を抱いて、

「寂しいの?ごめんね。」

奈央は母に抱かれるとにっこり笑う。笑顔が母に似ている。

「奈央はお兄ちゃん好きだよね。抱き着いたら離れなくなるね。」

麻友美の母は奈央に驚く。

「後妻さ…。」
「違います。この子は21も年の離れている実妹です。」

奈央は麻友美の兄に向けて手をぱたぱたさせる。

「あらら、お気に入りだものね。抱き着いたら離れない癖だわ。」

麻友美は不思議そう。

「旦那さんが会見中に奈央がお兄さんを気に入ってしまったみたいで…離れようとしなくって…。」

麻友美は笑って、

「お兄ちゃん、小さな恋人だね。」

兄は、

「そんな…。」
「案外男として意識しているのかも。家族以外でこんなに抱き着くの初めてですから。」

兄は奈央を抱く。奈央はきゃあきゃあ喜ぶ。麻友美の母は、

「娘をよろしくお願いします。何かあれば指導してやって下さい。」
「ママ…いいの?」
「仕方ないでしょ?公表しちゃったし、麻友美も彼の所へ行きたいでしょ?好きでしょ?咎めて反対して、堕ろせる?私達は孫を殺すなんてできないわ。行ってらっしゃい。彼に優しくしてもらいなさい。赤ちゃんも喜ぶよ。」
「ごめんね、ママ。私、勝手に赤ちゃん作ってしまって。」
「作った?与えられる命。既成じゃないわ。早く帰って来てね。妊婦さんに夜更かしは悪いわ。それに、パパが淋しがるから。麻友美の妊娠を知ってから毎日写真見てるの。あんなに小さかったのに母親かぁ…なんてね。パパもママもお兄ちゃんも祐貴も、麻友美を愛してる。いつでも戻ってくる場所だからね。」
「ママ、大好きだよ。みぃんな好き。」

母は麻友美を抱いて、

「ほら、早く行かないと離さないわよ。」

< 221 / 257 >

この作品をシェア

pagetop