オチビな理由


「…ね、それやめてください」

「……?何を?」

「『オチビ』って呼び方。すっごいムカツクんですけどっ」


 振り向いた孝太先輩に、あたしはしかめっ面で答えた。
 先輩は、律儀にキチンとあたしに向き直ってから人差し指で頬をかく。


「…嫌?」

「はい」

「そんなに?」

「むちゃくちゃイヤ」


 あちゃ~とまた頬をかいた先輩が、頭ひとつ半は低いあたしに視線を合わせてくる。
 ちょっと膝を曲げるくらいじゃ合わない視線。毎度毎度その行動に胸の奥がムカリとするのだ。
 先輩の、くっきりとした二重まぶたを兼ねそろえた瞳まで憎らしくなってきて、あたしはぷいっと横をむいた。


「そうやって見下そうとする先輩がヤだ」

「見下してなんかねーって!つかお前、何で嫌なんだよ」

「孝太先輩ぐらい背のある男にはわかんないでしょうけど!」


 まるで五歳児があっかんべーをするような態度で、あたしは先輩の横を走りぬけた。
 後ろであたしの名前を呼ぶ声がしたけれど、振り返らなかった。
 だって恥ずかしい。ずっとためこんできた本音を暴露してしまったのだから。

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