足音さえ消えてゆく
「今日ってさ、リコーダーのテストだっけ?」

 静寂を打ち切ろうと菜穂に声をかけてみるが、チラッと私をみてコクンとうなずくだけ。そのまま視線を教科書に落としてしまう。

 ま、いいや。やっぱりほうっておこう。


 リコーダーを取り出して練習している間に、クラスメイトが次々と登校してきた。

「カナ、めずらしいね。音楽嫌いじゃなった?」

「嫌いなんて言ってないよ」

「そっか。嫌いなのは岩崎先生のことだっけ」

「ぶ、何言ってんの」

 そんなことを話しながら朝の時間は過ぎてゆく。

「ま、岩崎先生なら井上先生とお似合いだよね」
とまで言ってのけた私に、友だちはかなり驚いていたが。

 授業だと遅く感じる時間も、こういうときはあっという間に過ぎてゆく。
 優斗があいかわらずアセを拭きながら登校してきた。

 座ったと同時に、いよいよ迫ってきた北海道行きの打ち合わせがはじまる。



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