足音さえ消えてゆく
 玄関の扉を開けると、そこには母親が仁王立ちで待ち構えていた。

「あ、ただいま・・・」

「ただいまじゃないでしょ、何時だと思ってるのよ」
 
 やばい、これはかなり怒っている。

「えと、もうすぐ11時?」

「あほか」と頭をコツンとやられる。

「子供がこんな時間にほっつき歩いていいと思ってるの?」

 ふと廊下の向こう側を見ると、恵美が両手をあわせて謝っているのが見えた。いや、よく見るとお祈りのポーズだ。私の命日、ってか。

「気をつけまぁす。でも、私、子供じゃないし」

「何言ってんの。まだ子供じゃないの。お父さんからも叱ってもらいますからね」

 
 リビングのソファに座り、いかに夜の道があぶないかを説教された。といっても、父親の方は、
「まぁまぁ」
と母をなだめてくれ、それで逆に怒られていたが。

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