【長編】唇に噛みついて


オレが入る隙もないくらいに、2人は順調だった筈なのに。
お互い本気だった筈なのに。


「お前の……きーへの気持ちはそんなもんだったのか?」


そう問いかけるけど、須藤は黙ったまま口を開こうとしない。
またその姿に苛々してオレは少し強い口調で言った。


「お前は変わってなかったんだな。やっぱり……力づくでもきーをお前から離すべきだった」


こいつが本気じゃないのは、今までの須藤を見てれば分かってた筈だ。


「オレはもう引いたりしない。お前の気持ちがその程度なら、オレがきーを守る」


「勝手にしろよ」


即答で返ってきた言葉。
その言葉を聞いてオレは少し目を見開いた。


「……え?」


こいつ……今、何て。


「守りたきゃ守れよ。あいつだってきっとそれを望んでる」


「どういう意味だよ。お前……それ本気で言ってんのか?」


視線を合わせずに呟く須藤に問いかけると、須藤は少し掠れた声で言う。


「あんた……さっき俺に、何でフッたんだって言ったよね。それ間違ってるから。フラれたのは俺」


「え?」


フッたのは……きー?


「もう俺の事はいらないんだ。聖菜はあんたを選んだ。それに……もう別れたし。勝手にしなよ。俺にはあんたにとやかく言う資格ないし」


それだけを言うと、須藤はオレに背を向けて歩き出す。


じゃぁ……フラれたのは須藤だったのか?
それじゃ、須藤は今きーの事どう思ってるの?


オレはこんがらがった頭をボーッとさせながら去って行く須藤の背中を見つめ続けた。


< 259 / 286 >

この作品をシェア

pagetop