【長編】唇に噛みついて


「真寿美ちゃん……」


思いもよらない登場に、あたしは動揺を隠せない。


だって……。
何を言ったらいいのか、分からないし。
何より気まずい。
あたしは一方的にそう思ってるだけなんだけど。


すると真寿美ちゃんはフッと笑って口を開いた。


「あの……少しお話しませんか?」


「えっ?」



話……?
今更、何を話す必要があるんだろう。
だって……。
零はもう、あたしのものじゃないし。
きっともう零と真寿美ちゃんは……。


考えると、胸がグッと痛む。
答えられずに俯いていると、真寿美ちゃんはまた口を開いた。


「聞きたい事と……聞いてほしい事があるんです」


そう言った真寿美ちゃんは真剣そのものだった。


きっと……。
真寿美ちゃんも勇気を振り絞ってあたしの所に来たんだ。
それなのに、あたしが逃げるなんてできないよね。


覚悟を決めたあたしは真寿美ちゃんに頷いて見せた。


「分かった」


逃げちゃいけない。
それは真寿美ちゃんの為じゃなくて。
あたしが強くなって、前に進む為にも。


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