からっぽな街
テツヤが、離れて行ってしまうことの不安が膨れ上がる。両足で立っていることの出来た静寂な海に、たちまち後ろから、大きな波が襲ってくる。重たい波は、上から、私を飲み込む。波に吸い上げられた私は、海の中で呼吸が、出来なくなる。
今、こうして、一緒にキーマカレーとナンを頬張っているテツヤは、そういう私を知らない。正常だと思っている。安定していると。そんなことなんて、少しもないのに。
「これ、おいしいね。」
テレビを見ていたと思ったテツヤが、私の作ったカレーを褒めてくれる。隠し味は、トマトだね。隠れてないよ。と笑いながら。
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