モノクローム
それから、どれくらいの時間が経っただろうか。
口の中にある飴はすっかり溶け、変わりに喉が潤いを求めていた。

元々、面倒くさがりの私は手錠を掛けられた事により、更に1つの行動を取る事にも面倒になった。

水を飲むことを諦め、携帯を取り出して開く。
時計は午後20時10分を記し、メモリは一個しか残っていない。
恐らく、先程の着信が原因だろう。


どうしよう…。


一旦、携帯を閉じて考えた。

主人には連絡したから、もうその必要は無い。
自分の家族には何年も連絡取ってないどころか、縁切り状態なので言う必要は無い。
友達…。そう呼べる人は誰も居ない。

私には話す人など誰も居ない。そんな事は分かりきっていた。
でも、誰かに話したかった。

誰かに聞いて欲しかった。


ホントは誰かに頼りたくて、仕方なかったのかもしれない。
再び携帯を開くと、メールを知らせる小さな手紙が画面下に見えた。



【元気?】と一言だけの素っ気ないメール。
それは、前に私が「逃げ出したい」と言った人だった。
私は何て返事をしようか迷って、結局「元気だよ。」と送る。

数分もしない内に返信が来た。
【そっか。】と、またも素っ気ない文章に、「うん。」とだけ返す。
また数分もせずに返事が来る。

【いま、何してんの?】

「別に何も」と文章を作り上げた所で、30秒後に切れる合図が響く。
とっさに私はそれを消して、「監禁された。」と文章を直して送信した。
< 12 / 100 >

この作品をシェア

pagetop