キョウアイ―狂愛―







領主アルザスの治める街、トルティアの治安は、ここ最近乱れ始めていた。


厳しい税の徴収に貧富の差は広がり、ついには、義賊なるものが現れだした。





アルザスとて代々領主の家系に生まれ君主たるべき教育は受けてきた。



しかし、民衆というものは、戒律を弛(ゆる)めてやれば怠惰に走り、少し厳しく縛れば暴動を起こす。




(難儀なものよ……)



これが自らの生まれ持った資性とはいえ、アルザスが自らの民に情愛を抱くことはなかった。

冷然と執政を行うのみ。



ただ、盗賊どもの討伐が一段落ついた頃に、税収を緩和するつもりがあった。


しかし、戒めの意も込めて盗賊どもの断罪は必ずや行わなくては……。





(リドルの加勢が期待出来ぬ今は、難しいところではあるな……)



偵察させている部下の報告によると、リドル家は未だ、逃げ出したらしい同胞を見つけ出せないでいるようだ。





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