漆黒シンデレラ



葉澄は気怠いオーラを漂わせながら家路を辿っていた。だが、これから環ちゃんに会えるというのだから胸が弾んでしまう。


これから向かう場所は「日比野書道教室」だ。俺は3歳の頃から通っている書道教室。今年17歳になるから、14年目となるんだな。

俺と環ちゃんの出会いは小学2年生の時だった。彼女がここに入ってからだ。



(——初めて面と向かって会った時も可愛かったなぁ…)



小学校は一緒だったが、その二年間は見事にクラスが違ったため名前しか知らなかったんだ。今も変わらない真っ黒な髪をポニーテールに結い上げられて、汚れても大丈夫なように黒とグレーのワンピースを着ていた。



『——えっと…こさかい、たまき…です。きじょう…はすみくんだよね?』



そう挨拶をされた時に思わず目を見開いてしまったのは今でも覚えている。まさか俺のことを知っていたなんて夢にも思わなかったからだ。

俺は生まれつき色素が薄いせいか髪の毛も瞳も琥珀のような色をしていたから——ただひたすらに真っ黒だった環ちゃんに少なからず憧れを抱いていたのだった。



『う、うん。おれはきじょうはすみ。…どうしておれのことしってるの?』

『だって、おなじクラスのまみちゃんも、ゆいちゃんも、ほかのこも"すき"っていってたから』



今の俺だったら、「環ちゃんは?」と聞いていたと思うが…生憎餓鬼だった俺にそんな思考は伴わなかった。


だが、とにもかくにも——その頃から俺は環ちゃんの事が大好きだったのかもしれない。友愛でもなく、家族愛でもなくて——




LIKEの好きでもない、LOVEの好きとして環ちゃんをそういう対象でも見ていた。長い年月が経って、他の女の子から告白されても全然靡けなかった。環ちゃんが"とある時期"から俺を嫌悪の対象として見られているのにも気付いていても、尚…


俺は環ちゃんしか見れなかった。他の女とキスしてもセックスをしても、環ちゃんとお喋りをしたり一緒に居るだけの方が幸せだった。



(…ここまで来ると、いっそ病的だよな)


そんな自分に自己嫌悪をしてしまうが、これから環ちゃんに会える喜びが強くてどうでも良くなった。


 
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