(短編)フォンダンショコラ
でも、隼人はあたしの想像とは違う方法で、返してくれた。

「・・・そっか、大変だったんだな。」

頭に感じる、僅かな温かさ。それは、久しぶりに感じた隼人の手の温もりだった。

思わず、顔を上げる。

そこには、いつかと変わらない隼人の微笑みがあった。

「・・・あたしのこと、いい加減とか、思わないの?」

「馬鹿にすんなよ。お前のこと、これでもきちんと見てたんだから。」

隼人の力強い返事に、泣きそうになった。

ちゃんと、わかってくれてる。

少しだけ、4年間の距離が埋まったようで我慢出来ずに笑みをこぼした。

隼人はそれに答えるように笑って、手を放した。

「今は、仕事してるのか?」

「うん。飲食店で。」

「そっか。・・・どんどん先に進むな。」

寂しそうに笑う隼人に、あたしは少し首を傾げた。

「そんなことないよ。」


先に進んでる、なんて、そんな気はしない。むしろ、後退したようにも感じる。

いつも、不安と隣り合わせな感覚。学生の時にはなかったものが、あたしを焦らせる。


「隼人は、今は?」

知りたい気持ちを抑え切れずに、そう口にした。

「大学行ってるよ。・・・お前に話してた、第一志望んとこに今は通ってる。」

「わ、おめでとう!」


自分のことのように嬉しくて、思わず声をあげた。

どれだけあの学校に行きたがってたのか、あたしは知っている。


「なんか照れるな。ありがと。」

隼人は鼻に手をやって、少し控えめに笑った。
照れてる時の癖だ。

今も変わっていないその癖が、不思議な錯覚にあたしを陥らせる。


< 13 / 52 >

この作品をシェア

pagetop