(短編)フォンダンショコラ
未だに睨みつけてくる彼女の視線を感じながら、あたしは嘘をついた。

彼女から、嫉妬以外に、不安を感じる。
彼女の気持ちがわかってしまう。

だから、あたしは身を引かなきゃならない。


「用事ってなんだよ。」

隼人は、そんなあたしの気持ちもお構いなしに食い下がってくる。

なんでそんなに構ってくれるのかわからない。

けど素直に、嬉しい。

やっぱりまだ、あたしは隼人が好きだ。


「いいじゃん、行かせてあげれば。」

彼女が、隼人をなだめる。

「チホ、頼むからちょっと待ってて。俺、こいつと話したいんだよ。」

「・・・なんでよ。話すことってなんなの?じゃあ、あたしがいる前で話せば?」


彼女はまた不機嫌そうな顔になった。
彼女の言葉に、隼人はグッと押し黙る。


「あたし、行くね。」


それ以上、あまり見ていたくなくて、あたしは荷物を手に取った。
まだ何か言いたげな隼人の目が、あたしの後ろ髪を引く。


「会えて嬉しかった。ありがとう。元気でね。」


言いたいことはたくさんある。でもそれだけしか、あたしは言えなかった。
最後に彼女に少しだけ頭を下げて、その場を離れた。

一応、彼女の前で、隼人の名前を呼ぶのはやめておいた。


隼人とあたしの道は、あの日に分かれたんだ。

忘れちゃ、ダメ。

もう、終わっているんだから。


溢れ出しそうな涙を、必死に押し止めながら、あたしはただ歩き続けた。


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