花は踊る 影は笑う～加賀見少年の非凡なる日常～

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「声紋八十五パーセント一致。必須回答項目、正解率０パーセント。認証失敗。認証失敗。再度認証サレマスカ？」
　無機質な電子音声の応答と共に小さな液晶パネルに表示される『認証エラー』の文字を、大きな、やや吊り上がり気味の瞳で睨みつけて。
「ち……っ」
　少年は忌々しげに舌打ちをした。
「また故障かよ……ってか、声紋あってりゃいいじゃんか。あんな質問答えられるわけないだろっ。あの、変態！！」
　未だせわしい蝉の声が響く木々に囲まれるように建つ白い洋風の建物。
　緑に囲まれる木造家屋の図は、見ようによってはのどかな印象を与えるのだろうが、たった今、その前に立つ少年にとっては忌々しい存在以外の何物でもない。
眉をしかめながら建物を凝視して悪態をつく少年の頬が薄ら赤いのは厳しい残暑によるものではく、建物の外観には少々不似合いな声紋認証装置なんていうシロモノがだした必須回答項目にある。
　無神経で不躾で不快な事この上ない質問。ましてやその質問を考えた輩のことを考えれば更に腹立たしい。
　だが、いくら腹立たしくともこの中に入らないわけにはいかない。ここに入らねば契約不履行で、手に入るものも入らなくなってしまう。
　少年は怒りを堪えながら、玄関脇、声紋認証装置とドアをはさんで反対側の壁に取り付けられた赤いポストを開け、そこに何故か鎮座する紙コップを手に取った。
「理事長！！　千歳です。いないんですかー？」