Blood†Tear

怯えたように眉を潜め、落ち着き無く辺りを見渡す。

血に塗れた手は彼女を探すように宙を漂い、青白い唇は震えていた。


レグルから離れたアリューはマットの元へと歩み寄り、幼い子供のように変貌した彼を抱き締める。



 「…あぁ…アリュー……」


視界が霞み出したマットは彼女の頬に触れ、確かめるように手を沿わす。


アリューは何も言わず、彼の背に腕を回したままそれを受け止める。



フラフラと一歩ずつ後退するマット。

いつの間にかある家屋の中に侵入していた2人。


安心したのか穏やかな表情を浮かべる彼は、アリューに押され背中から倒れ行く。


アリューは静かにマットを見つめ、マットは優しくアリューを撫でる。


そんな2人の傍に飾られていたツーハンデッドソード。


偶然か必然か、それは壁から離れ刃を地に向け落ちてくる。




 「ぐっ……!?」


身体に走る激痛に、目を見開き息を呑む。

一瞬何が起きているのかわからなかったが、自分の胸の違和感と広がる血液、アリューの背中から伸びる刃と長い柄を目にして理解する。


この剣が、自分達2人を貫いているのだと。




 「…アリュー……」


名を呼ぶマットは彼女の頬に触れ、頭を撫でると髪に触れる。


彼女を見つめ微笑むと、髪に絡めていた指は離れ、力なく床に落ちて行った。




 「……」


見下ろすアリューは彼が息をひきとるのを見送ると、彼に寄り添いそっと瞳を閉じる。


閉じられたらその瞳から零れるのは一粒の雫。


感情も何も持たない彼女が自らの意志で行動を起こし涙を流す。

その姿は人と同等で、只の道具ではなく1人の人間そのものだった。




2人の胸を貫くツーハンデッドソード。
多量の血が広がる中で、2人は幸せそうに寄り添い、静かに眠るように瞳を閉じる。


その姿を目にしたレグルは傍にあった帽子を手に取り深く被り、鍔を掴むと顔を隠す。


そしと軽く頭を下げ、瞳を閉じて黙祷を捧げた。




窓から差し込む暖かな陽の光は2人を優しく照らす。


窓辺で羽を休める小鳥達は、彼等に祈りを捧げるように静かに見守っていた。




< 271 / 324 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop