多幸症―EUPHORIA―
『みんな元気だよなぁ』

 夏真っ盛り。ぼくは学校のプールから聞こえる耳をつんざくような騒ぎ声につい、声を漏らした。日差しが照り付け熱を溜込んだアスファルトに水しぶきが弾け飛ぶ。

 教室から見えるプールはまるで別世界の様だった。夏休みに学校に来る目的と言えば、補習授業くらいのぼくには特に。昼過ぎ、補習が終わり、人気の無い教室で机に突っ伏して青春に憧れを抱く悩み多き男子高校生。なんて、情けないんだ。

『亜草くん、元気ないの?』

 同じく授業日数が足りずに補習を受けていた、森野梨依がぼくの顔を覗き込んだ。

『元気ないっていうか、』

 ぼくは言葉を詰まらせた。

『ん?』

 森野は小首を軽く傾げて、ぼくをじっと見ていた。


『なんか、海行きたくなっちゃった……。そうだ、明日行かない? 明日はちょうど補習無いし』

 黙っていると、教室の窓を眺めながら森野は突然、そんなことを言った。

『海?』
『そう、海。行きたい気分』

 森野はぼくの隣りの机に座ると、足をぶらぶらさせ楽しそうに笑顔を浮かべた。

『きっと、広い海見たら、悩みごともちっぽけに思えちゃうよ』
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