もてまん

「お父さんとかに相談してみれば……」

「パパはママの言いなりだから……」

「でも、大事な娘の願いだろ、話して……」



「話して分かる人じゃないの!」



舞が急に声を荒げて、驚いて舞の方に向き直った繁徳が見たのは……


舞の涙。


(こりゃぁ、ただ事じゃない)


「あたし、四歳からピアノ習わされてたの。

初めは、ピアノが嫌で嫌で仕方なかった。

毎日ピアノの前に座らせれて、ママが良いって言うまでピアノを弾かされて、その間中、ママは横に付いてずっと見てるの。

今想い出しても、なんかゾッとする感じ」


「英才教育ってやつだな」


「そうね。ママは小さいあたしが、難しい曲を弾くのが誇らしかったんだと思う。

でも、お陰で中学上がる頃には、楽譜があれば自分で自由に弾けるくらい上達してた。

その頃習っていた近所のピアノの先生も、舞ちゃんには才能がありますねって。

まぁ、その位の褒め方なら、ママも機嫌が良くって問題なかったの。

でも、中学二年の時、『舞ちゃんがこのまま音楽の道に進むなら、高校も音大付属に進んではいかがですか』って先生がママに言って……」



「何だ、その頃から、舞の才能は認められてたのか」


繁徳の言葉は、そのまま宙に浮く。


舞は、そんなことはどうでもいいの、と言うように、話しを続けた。
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