もてまん
「聞いたことありませんか?
千鶴子さんの人生話?」
「人生話?
残念ながら……ね。
羨ましいわ」
「綾さんは、ご結婚なさってるんですか?」
繁徳は、何故か唐突に、この美しい女性に聞いてみたくなった。
「嗚呼、あなた、鋭いこと聞くわね。
あたしは超堅物の子供なのよ。
だから、やっぱり堅物なの」
「ってことは……独身なんだ。
でもその発想って、何か変じゃありませんか?」
綾は、綺麗に整えた眉をちょっと上げて、小さくため息をついた。
「わかったようなこと、言わないでよ」
「すいません、ちょっと気になったもんで。
でも、千鶴子さん、僕たちにはリュウマチがひどくなってピアノが弾けなくなったって言ってましたけど、それってほんとは発作のせいだったんだ……」
「リュウマチはその後ね。
最近よ、リュウマチがひどくなったのは。
発作のこと、あなた達には内緒にしておきたかったんじゃない」
「心配するから?」
「そう、気丈な方だから」
綾の口調は、尊敬のこもった優しいものだった。