木霊の四辻
揃って振り返った左側、つまりマンションの階段のほうに、桜木学園の制服、二年生の校章をつけた、三つ編みにメガネの少女が立っていた。恐らく、八木麻衣子と同室の今野佐紀だろう。桜木学園の寮はほぼ、二人、三人の相部屋になっており、相部屋の相手は必ず、文系と体育会系など、異なった所属の生徒と決まっている。今野佐紀が文系部に所属している情報は、すでに入手していた。

今野佐紀はフランスパンやいろいろな食材のつまった紙袋を抱え、量の手首にはシャンプーや洗剤、肉や牛乳などのビニール袋が引っかかっていた。

学園内なは当然、食堂もある。だが桜木学園では、寮生徒最低週三日は自炊の義務を与えている。売店を利用するには学生証明書の提示が必要になるのだが、週に四度までの利用しかできないよう、データが管理されている徹底ぶりだ。

そのため、必然的に生徒は個々人で買い出しをしなければならない。スーパーや市場はさすがの桜木学園内にもない。

自炊の義務によって必要となる買い出しは、学園に入り浸らず、外へ出て、常に世間を自分の目で確かめる――要は、寮生徒が箱入りにならないための対策だった。
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