木霊の四辻
つまり、千里ヶ崎燈哉は、宮部ゆいの昇格試験に一枚噛んでいたのである。だからゆいの推理に茶々を入れたり、あえて当てずっぽうなことばかり言ったりもした。ゆいが木霊を聞いた時、燈哉にも聞こえているべきだったのである。それを、「聞こえない」と答えたのも、ゆいの捜査をわざと撹乱するものだったのだ。

試合に勝って勝負に負けたような気分。なにより、自分ががんばらずとも、特風は学校長の懐刀として、まだまだ精鋭を抱えているのである。なぜ自分を持ち上げるのか。

「私、別に花班でいいよ。見栄とか誇りもないし」

「そう、言わないでくださいよ。宮部ゆいには、もっともっと働いてもらわなければなりません。もっと上のほうでね。なにせ、陰陽師なわけですから」

いつまでもつきまとうその古めかしい呼称に、ゆいは苦笑した。

自分は陰陽師などではない。

ただの、屁理屈こねのリアリストだ。

「ふー」

と、タバコを吸っている人のように、細く長く息をついて、ゆいは天音沢と同じポーズを取る。背丈の関係で、ゆいはグラウンドを見下ろす形になった。

「で、用件はそんだけ? 私が月班に編入。……だけ?」

「いえいえ、実はもう次の案件がありまして。これがですね、早くも月班の管轄から」

「……なに、それ」

「実はですねー」
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