天使の羽が降る夜に


愛などどいう言葉も感情も俺は知らない。

言ったこともないし、言ってもらった事もない。

愛するとはいったいどんな感情なのか・・・そんなことも全く分からない・・。

だけど・・・舜と未紅の事を見ていると・・・どうしようもなく切なくなる・・・。

・・・俺の命を舜に与えて、2人は幸せになった方がいいのではないか?

そんなことさえ思うようになる。

誰かの為に・・・舜や未紅の気持ちが今なら少し分かる。

・・・これが愛情なのか?

・・・いや、違う・・・また別の感情のように感じる・・・。



舜が亡くなった後、未紅はふらふらと病室を出て行く・・・。

・・・未紅・・・魂を・・・取り出すことが出来ないのか・・・?

行った先は海。

未紅はただぼーっと海を眺めていた。

涙が止まることはない・・・舜が言っていた「笑顔が消えるのが怖い」とは・・・こう言う事だったのか・・・?

何もせず、ただ泣きながら海を見ているだけだ・・・。

だが・・・そろそろ魂を取り出さねば・・・舜の魂は・・・。

俺は思い切って未紅に話かける。

「未紅」

名前を呼ばれた未紅は振り返り俺をみる。

「聖夜・・・さん・・」

『・・・ひどい顔をしているな・・・』

今まで見たことのない・・・切ない顔だった。

「ううっ」

『・・・そろそろ舜の魂を運ばないと・・・路頭に迷わせることになるぞ・・』

俺の言葉にハッとしたように病院へ急ぐ未紅。

未紅は舜に近づくとそっと顔に触れる。

「舜・・・しゅ・・・ん」

名前を呼びながら・・・また涙を流していた。

・・・舜・・・未紅のこの悲しみから俺は助け出してやる事が出来るのか?

お前のことをこんなにも思う気持ちを・・・救ってやることが俺に出来るのか?

『未紅・・・』

俺が声を掛けると、未紅は祈りを捧げる。


舜の体から出てきた魂は本当に透き通っていて綺麗なものだった。

「・・・未紅が好きになるはずだ・・・」

こんな魂の持ち主じゃ・・・俺はかなわない・・・。

・・・どうやったって・・・未紅を救ってやることなんて・・できないぞ・・・舜。





< 70 / 106 >

この作品をシェア

pagetop