【短】俺の、友人
『愁一郎が来てるんでしょ! なんで誰も見てないのよっ。役立たずな看護師たちねっ』

カツカツと鳴るヒールの音と頭に響くほどの甲高い女の声が、松浦のいる病室の前で聞こえてきた

どうやら俺らの部屋の前で、看護師に怒りだしたらしい

越智先生が、がっくりと肩を落とすと、「はあ」と深いため息をついた

「すまないねえ」

「あ?」

「今のは私の妻…なんだが、ちょっと短気で」

越智先生が、額に手をあてて、困った表情を浮かべた

『家に電話して、愁一郎がいるか確認して! きっといないでしょうけど』

「気が強そうだな」

俺が振り返って、ドアの隙間から見える女に目をやった

つり上がった目が印象的だ

「昔は可愛かったんだ」

「…ふん、人は変わる」

「妻は変わりすぎだ」

越智先生が、呆れた顔を怒鳴っている自分の妻を眺めていた

『あの女の病室にいるんだわ! 手術前だからって…なんて女なの』

越智先生の妻である女が、またツカツカと廊下を歩きだして、俺の視界からフレームアウトした

「騒がしくなるけど、ごめんね」

越智先生が、にこっと笑うと松浦の病室を出て行った

俺は先生が静かに扉を閉めるのを確認してから、廊下の外で繰り広げられる声を口を緩めて聞いていた



< 11 / 18 >

この作品をシェア

pagetop