【短】俺の、友人
「行くの?」

桃香が静かに口調で聞いてくる

「ああ。俺の性格は知ってるだろ?」

俺が眉をぴくっと持ち上げる

桃香が「知ってる」と寂しそうに微笑んだ

「あの…どこに…」

さくらが不安そうな顔をして、桃香を見上げた

桃香がにこっと笑うと、「お仕事」と答えた

桃香らしい配慮だ

「桃香も、さくらも…横になれ。眠れなくても身体は休めておけ」

桃香が俺に近づくと、ぎゅっと俺の小指を握りしめた

「桃香?」

桃香がにっこりとわらって、俺の小指から手を離すと、腹の上に手を置いた

そこは…以前、桃香の父親に刺された箇所だった

桃香の視線があがって、俺の目をまっすぐに見つめてきた

『怪我をしないで』

桃香の目がそう訴えていた

何も言わないが、桃香の心の声が聞こえる

「桃香、クッキーが食べたい。帰ったら食べるから、作っておいて」

俺は桃香の前髪に触れた

前髪の下に隠れている古い傷が見えると、俺はそこにキスを落とした

< 5 / 18 >

この作品をシェア

pagetop