神の息・人の息

街へ

『絶対無』は物理学上、今は存在しない。

だからと言って物理学上の『無』と概念としての『無』とを同一に捉える事は無意味かも

しれない。

また『無』=『死』として『無』が絶対でないのなら『死』もまた絶対でないと言う論法

も乱暴であることも十分承知している。

だがそれを一笑に伏して微塵の違和感もないかと言えばどうしてもそうは思えないのだ。

また『無』が存在しない以上『無限』についても同様に疑わなければならないのではない

か。

例えば今どうしてもイメージできず毎夜狂おしい思いをしているのは、光速で広がり続け

る宇宙の果て、その果てがたどり着く前の一歩先の様子についてである。

一体何があるのだろう。

何もない『無』の空間なのだろうか。

それとも壁でも在るというのか。

押しやられた先にあるものは、一体どうなってしまうのだろう。

わからない。

どうしてもわからない。

僕の背中に光速の翼があればいいのに。

何処までも飛んで行ける『翼』がほしい。


不意に壁がモニターとなり、そこに古ぼけた、そして見覚えのある日記帳が映し出された

のだ。

「覚えてる?あなたの日記帳よ。」

「覚えているよ。これはたぶん‥‥10才の時の日記だ。」

モニターに映し出されていた古びた日記帳は僕の物だった。

「あのねぇ10才の子供が狂おしく夜も眠れないってのはさ、せいぜいクラスのかわいい

女の子のことやら近所の綺麗なお姉さんのことやらじゃないの?」

笑い声がや止み、呆れた様な顔で彼女が言う。

「いや、本当にわからなくて悩んでいたんだ。誰に聞いても納得のいく答えは出ないし、

子供らしくないなんて言われたり‥‥生意気だって言われたり、だから誰にも答えを求め

なくなって、自分の目で確かめたいと思ったんだ。」

感情が鮮明に甦る。

って様子をみる。
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