とろけるチョコをあなたに
たまにはデート気分
 年明けの喧騒もだいぶ落ちつき、街のショッピングモールにはラッピングされたチョコレートが所狭しと並んでいる。

 オレは二月の半ば頃にあった行事を思い出し、溜息を一つついた。


「陣。どうしたのだ。浮かない顔をして」


 名前を呼ばれ、視線をチョコレートから手を繋いで隣を歩いている少女に移す。

 いつもは凛とした光を放っている絵理の黒い双眸が心配そうにオレを見上げている。

 不覚にも頬が紅潮していくのが自分でも解った。


「いや別に。そろそろバレンタインの季節だなーと思っただけだ」


 赤くなった顔を彼女から逸らしながらそう答えると、絵理は納得したようにふむ、と一つ頷いた。


「確かに、二月十四日は血塗られた日だからな。

 バレンタインデーの由来になったとされる西暦二六九年のバレンタイン司祭の処刑に、一九二九年にシカゴで起きた血のバレンタイン事件。

 最近の出来事では一九九二年の清瀬市警察官殺害事件もこの日だったか。

 そんな日の事をふと思い出してしまったら、そなたが溜息をつきたくなるのも解ろうというものだ」


 いやお前解ってないから。

 思わず喉元まで出かけた言葉をオレは慌てて飲み込んだ。バレンタインといえばチョコレートなどという乙女回路をこの女に求めるのは無謀以外の何物でもない。
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