とろけるチョコをあなたに
「ところで青司よ。そなたは甘いものは好きか?」

「甘いものか……。冷蔵庫が空のときはブドウ糖をなめて飢えをしのいでいたなあ」

「わざわざそんなもん買う金があったら普通に食料買えよ!」

「バイト先の先輩から貰ったんですよ。プロテインとセットで」

 確かこいつのバイト先は駅前の執事喫茶だったはずだ。

 以前絵理に連れられて冷やかしに行った事があるが、小洒落た店員のイメージとボディビルダーを連想させるサプリメントの組み合わせになんともいえない違和感を感じた。

「……そういう事ではなくて、好きかどうかを聞いている。その、例えば、ちょ、ちょこれーとは食べたりするのか?」

 後半の言葉はしどろもどろになり、チョコレートに至っては声が裏返っている。何を意図した質問かは明白だった。

「チョコは好きだよ。イライラしている時に食べると落ち着く気がするし」

 そんな絵理の意図を知ってか知らずか、いつもの調子で青司は答えた。

 何かあるとすかさず突っ込んだりいじったりするのがこいつの習性なのにこの反応は明らかにおかしい。

 外国暮らしが長かったとはいえ、絵理のように日本のバレンタインの慣習を知らないというのも考えられない。
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