とろけるチョコをあなたに
「ああ、バレンタインにはチョコレートを贈る習慣があるからな。そのプレゼント用だろ」

「ほう。そんな習慣があるのか。確かに、贈答用に相応しいラッピングが施されているものが多数あるな……。むむ」


 絵理が目を止めたのは手作りチョコのコーナーだった。

『大切な彼に心のこもった手作りチョコを贈ろう!』という売り出し文句のポップ広告が張り出され、手作りチョコレートの材料となる素材や器具、ラッピング用の袋が並んでいる。

 ポップの見出しの下には手作りチョコを贈る意義が書かれており、絵理は真剣にその広告を見ていた。

 なんつーか、嫌な予感がひしひしとするんですが……。

「……陣。もしかすると、バレンタインに贈るチョコというのは手作りが推奨されるのか?」

 予感的中。

「……いや、そういう訳でもないだろ。無理して作るよりも市販のチョコの方が美味いと思うけどな」

「ふむ」

「ま、バレンタインなんてまだ先だろ。二月に入ってから考えたっていいんじゃねーの」

「むう……。そうか」

 オレは踵を返すと絵理の手を引いてチョコレートコーナーから離れた。
 
絵理は大人しくオレについてきたが、彼女にしては珍しく、たびたびチョコレートコーナーを振り返っていた。

 この事がきっかけで後々オレはとんでもない苦労に見舞われるのだが、この時はそれを予測できるほど頭が回っていなかった。
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