スキ
ざわめく教室の中

「来週じゃなかったの!?」

私の驚きの声が響く。

「しんみりしたくなかったんじゃない?」

空っぽになった彼女の席を見ながら、ミカは妙に冷静に答えた。

引っ越しは来週だって言っていたのに、実際に彼女がいなくなったのは今日で。

「そんな……」

呟く私の声に重なって、後ろの席がガタッと音をたてた。

振り返ればやっぱり。

私達の会話を聞いていたであろうアイツが立ち上がり、鞄も持たずに教室を飛び出して行く。

「追い掛けなくていいの?」

アイツを黙って見送る私に、ミカが聞く。

「……うん」

アイツの気持ちなんて、わかりすぎるくらいわかっていた。

勇気がなくて告白すらできないアイツをもどかしくも感じてたんだ。

くっつくなら早くくっついちゃえって。

彼女の転校を知らされた時だって、『早く言わなきゃいなくなっちゃうよ』なんて脇腹つついてみたりして。

それで、そんなアイツを目で追う彼女にも、本当は気づいてた。

ただ──……。

どうしてだか彼女の視線の意味を、アイツには教えてあげられなくて。

アイツの心のモヤの原因を、彼女に伝えてあげられなくて。

「痛い……」

この痛みは、2人を繋げてあげなかった後悔。

──それだけじゃない……けど。

携帯を取り出し、アイツにメールをする。

アイツが聞きたくても聞けずにいた電話番号を書いて。

誰の番号かは書いてやらない。

ハイフンだって入れてやらずに、数字の羅列。

そして、1言。

『気づけ、あほ』

精一杯の私の気持ちを添える。

でもアイツはやっぱりアホだから。

返ってきたメールは

『サンキュ』



携帯を閉じて、机に突っ伏した私の頭をミカが優しく撫でた。

「アホなのは、あんたでしょ」

その声が妙に心地良くて。

「へへっ」

鼻水すすりながら、やっぱり私は笑うんだ。


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