スキ
アイスコーヒーは大人になった今の私にも、やっぱり苦い。

でも、グラスの外側を流れる雫は少しだけ優しくて。

──カランッ。

中で揺れる氷の音を聴くと、あの日を思い出す。

『アイスコーヒー』

そう言う、彼の声──……



あの日、彼の注文を受けた私は、静かにカウンターに戻った。

けれど実際は、全身の毛穴から熱が吹き出しているんじゃないかというほどに動揺していたんだ。

彼は、元彼──タクミの親友。

タクミと付き合っていた時の、相談相手だった。

浮気癖のあるタクミに振り回される私を1番心配してくれていたのが、彼だったんだ。

私が弱音を吐けば、「大丈夫」と励まし。

いつも約束をすっぽかされる私を気遣い、電話番号を教えてくれた。

タクミの居場所はたいてい把握してるから、と。

それで、電話をして聞くと、他の女のところに行っている事を隠して、わざと私を笑わせるような話をしてくれた。

だから、タクミが浮気らしき行動をした時や、私との約束を破った時、電話をしても繋がらない時、私は決まって彼に電話をかけるようになっていた。

「聞いてよー」

と、愚痴から始まり、タクミとの今後について相談にのってもらい。

でも徐々に話はズレて、その日あった事や前日のテレビ番組、彼の失敗談などで盛り上がる。

私の泣き言も怒りも、全部彼が笑いに変えてくれた。

そして、何時間も長話をし、終了を告げるのはいつも夜中。

たまに携帯握ったままお互いに寝息をたてた事もあった。

『昨日長々と電話、ごめんね』

と翌朝メールすれば

『俺も楽しかったから』

とすぐに返事が来る。

そのうち、今夜はどんな理由をつけて電話しようか……と考えている自分がいて。

タクミが約束を破ると、『あ、電話できる』って喜ぶ私がいた。

事の重大さに気づいたのは、もう気持ちが手遅れになっていた時。

私はタクミより彼を好きになっていたんだ。

話しやすい彼に。

元気づけてくれる彼に。

笑わせてくれる彼に。

すぐに応えてくれる彼に。


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