スキ
チャンスが到来したのは、2月15日の放課後。

もう無理かと思い始めていた時だった。



金曜日の朝から鞄に忍び込ませているチョコは、土日の部活の間も出番を待ち侘びていて。

それで、今日も1日私と一緒に授業を受けて。

もしかしたら疲れきって溶け始めてるかもしれない。

でも……。

周りをキョロキョロ。

やっぱり誰もいない。

そして、私の視線の先には靴を履き替えている彼だけ。

つまり、2人きり。

今しか、ない。

──ジーッ。

そうっと鞄のファスナーを開け、チョコを取り出すと、私は意を決して彼に声をかけた。

「た……武志……」

歩き出そうとしていた彼は、私の声にゆっくり振り返る。

そして、私の手に持つ赤い袋に視線を落とすと

「……はぁ」

冷たいため息だけ吐き、そっぽを向いた。

モテる彼は先週からチョコをもらい続けていて。

私はその現場を嫌と言うほど目撃してきた。

そして、どのチョコも突き返してきた非情な奴。

だから今のため息はきっと『だから、いらねぇよ』みたいなもので。

どうせ渡したところで、みんなと同じように突き返されるのは目に見えてる。

けど……。

『武志に手作りチョコあげるんでしょ?』

先週友達と教室に残って話していた時。

偶然にも武志本人にその会話を聞かれてしまったんだ。

慌ててごまかす言葉を探そうとしたものの、余計に墓穴を掘るだけで。

あれ依頼、ギクシャクしたままの私達。

もう今までみたいな友達には戻れない。

それならもう、ハッキリ言うしかないじゃない。

卒業だって、もう間近。

あんな伝え方のままじゃ、絶対後悔する。

だから

「す……好きなんだからっ!」

3年分の想いを

「仕方ないじゃんっ!」

声にする。

「……しょうがないじゃん」

好きなんだもん。

それはフラれる事がわかった上で、半分ヤケみたいな言い方で。

描いていた告白シーンにはほど遠い。

でも1度吐き出した想いは溢れて、言葉と共に涙となり。


< 4 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop