《短編》幼馴染のその後に
「…何で、こんなことするのよ…?」


きっと今のあたしは、気を抜くと泣き出してしまいそうで。


何か言って、誤魔化したかった。



『…されたくなかったら、勝手に入って来るなよ。』


「―――ッ!」



その瞬間、もぉ昔とは違うんだと思った。


あたし達の関係は、今、この瞬間に変わったんだ。



気付いたら、タケルを突き飛ばしていた。


それからどうやって家まで帰ったのかはわからないが、お隣だから道に迷うことはなかっただろう。



駆け上がる自分の家の階段で息が切れ、だけどバタンと閉まるドアに安心した。


崩れ落ちた瞬間に視界を支配した景色は、タケルの部屋の窓。


同じような造りの建て売りだけに、あたしの部屋の窓の向かいは、そのままタケルの部屋の窓で。


昔はよく、窓越しに会話をしていたことを思い出して。


その瞬間、急いでカーテンを閉めた。


そしてやっと、誰にも見られない自分だけの空間で、声を殺して泣くことが出来た。



あたしとタケルは、“女だから”とか“男だから”とか、意識したことなんてなかった。


少なくとも、あたしはそんなことを思ったことはなかったのに。


なのに、タケルは違ったんだ。


タケルは“男”で、あたしは“女”で。


もぉ、“幼馴染”には戻れない。



「…タケルの馬鹿ぁ…!」


声を上げてみたが、もちろん窓の向こうの住人には届くはずもなく。


明日からあたしは、どんな顔をしてタケルと顔を合わせれば良いのだろう。


“幼馴染”で“お隣さん”で、ついでに“同じクラス”なわけで。


無視をすることなんて、絶対出来ないんだ。


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