零~ZERO~
そんな謎な彼が、ある日
『仕事を休んだ。』
と言って私に逢いに来てくれた。

私は、
『仕事、大丈夫なの?』
『うん…。何か体調悪くて。』
『え?じゃあ、家に居なくちゃだめだよ。』
『家に居たくないし…。
何か、どーでもよくなっちゃった。』
意味が分からない。


また、変わらず、私の事を聞いてくる。

『歳、いくつなの?』

もう、しつこさにしんどかった私は、たまたま彼が、その日着ていたシャツに"29"と書いてあったので、
『来年、それ。』
と、シャツを指差した。

すると、彼は、さっきまで沈んでいたのが、喜びに変わった顔をした。忙しい人だ。


『じゃあ、あなたは、いくつなの?』
聞き返してやった。
『え…。33…。
てか、俺の名前ちゃんと分かってるの?』

『はい。坂井貴矢様でーす。』

これだけ来てくれているんだし、客の名前は、事前に知らされている。


『それ、本名だから。
何か、他の客は偽名使うらしいけど、俺知らなくて、本名書いちゃったんだよ。』
『そーなんだー。』
私は、興味無かった。
単に、客の1人だし、そんなにアピールされても…。

『それでさ…。いつ辞めちゃうの?』
また、この質問だ。


貴矢は、
『あーもう!俺、本気なんだよ!言っちゃった!
梢ちゃんの事、マジ好きなんだよ。
辞めたら、もう逢えなくなるじゃん!
居ても立ってもいられなくて、会社休んで来ちゃったよ!』


私は、嬉しいような驚いたような…。
"この人、何言ってんの?マジ?"
と思った。

反面、冷めていた。
顔もタイプじゃないし、何より鬱になってから感情が無い。

詞音のお陰で、本気なのか、ふざけているのか分からないし。
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