伝えきれない君の声


「今日は、どうもありがとう。」


彼が帰るのを見送るために、
店の外に出る。


やはりこの時間は、
冷たい風が体を包む。


羽織ったカーディガンの腕をさする私の仕草に気付き、


「寒い?」
そう心配そうに聞き、
首に巻いていた黒いマフラーを外した。


そして


(……えっ?)



私の首へとかける。


ほんのり、香水の香りがした。


「風邪ひいちゃ、大変だから。」


「でも……っ」


「俺は、大丈夫。それに…」


それに……?


「君とまた会える口実に、なるから。」


綺麗な彼の顔が、


ぼやけた月の光に照らされた刹那。


私の心は、


彼の方へと
ゆっくりと傾き始めていた。



「おやすみ。」



優しい笑顔を残して、


チカチカとまばらな星たちが
彼の後ろ姿を、


私の目に映し出した。






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